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バッハ /
6
つのヴァイオリン・ソナタ集
録音で用いる楽器については、どのような方針をとったのでしょうか?
ND.:
楽器の選択は悩みの種にはなりませんでしたし、この点について自問すらしていま
せん。演奏家は、同時代の聴衆のために音楽を奏でるのですから。今回の録音では、私
の
1713
年製のストラディヴァリウスと、スタインウェイの
D
型、つまりモダン・ピアノを用いて
います。したがって“歴史的な”アプローチによる録音ではありません。 バッハの音楽は“
時代を超越”しています。楽器の選択は二次的な問題です。
JP.:
バッハの音楽の特徴の一つは、それが事実上、いかなる楽器にも適応されうる点で
す。バッハ自身も自作を“再利用”して他の楽器のための楽曲を書いていましたが、そ
れらはじつに自然です。実際、バッハの作品をモダン・ピアノで演奏することは難題では
ありません。私自身、モダン・ピアノにおいてさまざまな色彩やニュアンスを探求すること
が好きです。言うまでもなく、そこでは適正な美的感覚(良き趣味
bon goût
)が求められま
す。とはいえバッハの音楽の多声的な性格は、のちの時代にピアノのために考案された
物々——例えばソフト・ペダル——を、私たちに“忘れ”させてくれます。ただしチェンバロ
は、極めて明瞭なリズムを生み出す楽器です。これをピアノに取り入れる際には、幾らか
の工夫が必要です。私の場合は、強弱の大きな変化を避けるよう努めました。それはモ
ダン・ピアノでバッハを弾く際の、チェンバロに対するささやかな様式的譲歩です。だから
といって、めりはりの利いた演奏様式や、それに伴う歯切れのよいタッチが損なわれるこ
とにはなりません。