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バッハ /
6
つのヴァイオリン・ソナタ集
バッハのソナタの譜読みを進めながら、どのようなことをお考えになりましたか?
ND.:
これほど徹底して制御された音楽が、どうしてこれほど豊富な感情を引き起こすの
だろう
?
と……。とりわけ私は、バッハの音楽の“多感さ”に心を動かされます。それは言う
なれば、繊細で表情豊かな効果が生みだす奇跡です。それらの感情表現が、フレーズ
ごとに“爆発”します。だからこそ私は、自分の心が受けとめた感情を、演奏を通して伝え
たいのです。確かに演奏家というものは、歳を重ねるにつれて音楽的な意図の本質へ
と向かい、演奏を純化——良い意味で——させていきます。それでもバッハの音楽におい
て、フレージングは自由です。さらに私は、ごく時おり現れる演奏指示を、一方的な押し
付けとは受けとめていません。つまり私は、楽譜に記されている指示と、極めて自由な関
係を維持しています。それが奏者による創作への寄与であると述べることは、それほど思
い上がった行為には思えません。
貴方は、現代音楽やジャズを筆頭に幅広いレパートリーを誇ります。それは貴方のバッハ
演奏をより豊かにしているように思えます……
ND.:
バッハの作品へのアプローチに関する貴方の質問を補足しておくなら、これまで多
種多様な音楽を演奏してきた経験が、ある日、バッハの作品の録音を決意させたことは
確かです。今後、私のすべての演奏会を、音楽の“いろは”であるバッハの作品で始めた
いとすら思っています。