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ニコラ・ドートリクール&ユホ・ポホヨネン

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古楽奏法の復興は、貴方のバッハの音楽の解釈に変化をもたらしたのでしょうか?

JP.:

私にとってバロック音楽は、あまたの可能性に満ちた世界であり、多彩なアイデアに対

する寛容さを体現するものです。チェンバロ演奏では装飾音が重視されますが、モダン・

ピアノでバロック音楽を弾く場合に、複雑に構築された作品にさらなる豊かさをもたらすの

は、精緻で細やかなニュアンスです。今回、モダン・ピアノでソナタを演奏する際にもっとも

刺激的だったのは、幾つかの楽章に現れる数字付き低音でした(原注:奏者は和音の構

成音を指し示す数字をもとに、伴奏を即興する)。その好例は、ソナタ第

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番の初期の稿に

だけ含まれる<

Cantabile, ma un poco Adagio

>です。私たちは、この一度聴いたら忘

れられない美しいアリアも今回のアルバムに収めました。

演奏中、何らかの制約をご自分に課したのでしょうか?

ND.:

適正な美的感覚(良き趣味

bon goût

)に従うことです。つまり、演奏を制御し、歌い、

流れに身を任せる……その

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つの行為を、もっともバランスよく行うよう努めました。それは

私にとって、演奏の鍵となるものです。私はこれを、ジャズのスタンダード曲を演奏する時

でさえも強く意識しています。バッハのソナタを演奏する場合には、あらゆる過剰と誇張を

避けることが至上命令です。バッハの音楽は“華美”になる必要はありません。