

ニコラ・ドートリクール&ユホ・ポホヨネン
35
古楽奏法の復興は、貴方のバッハの音楽の解釈に変化をもたらしたのでしょうか?
JP.:
私にとってバロック音楽は、あまたの可能性に満ちた世界であり、多彩なアイデアに対
する寛容さを体現するものです。チェンバロ演奏では装飾音が重視されますが、モダン・
ピアノでバロック音楽を弾く場合に、複雑に構築された作品にさらなる豊かさをもたらすの
は、精緻で細やかなニュアンスです。今回、モダン・ピアノでソナタを演奏する際にもっとも
刺激的だったのは、幾つかの楽章に現れる数字付き低音でした(原注:奏者は和音の構
成音を指し示す数字をもとに、伴奏を即興する)。その好例は、ソナタ第
6
番の初期の稿に
だけ含まれる<
Cantabile, ma un poco Adagio
>です。私たちは、この一度聴いたら忘
れられない美しいアリアも今回のアルバムに収めました。
演奏中、何らかの制約をご自分に課したのでしょうか?
ND.:
適正な美的感覚(良き趣味
bon goût
)に従うことです。つまり、演奏を制御し、歌い、
流れに身を任せる……その
3
つの行為を、もっともバランスよく行うよう努めました。それは
私にとって、演奏の鍵となるものです。私はこれを、ジャズのスタンダード曲を演奏する時
でさえも強く意識しています。バッハのソナタを演奏する場合には、あらゆる過剰と誇張を
避けることが至上命令です。バッハの音楽は“華美”になる必要はありません。