

ニコラ・ドートリクール&ユホ・ポホヨネン
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貴方はご自分が、ある特定のヴァイオリン奏法の伝統の中に身を置いているとお考えで
すか?
ND.:
伝統の問題を自分に当てはめて考えたことはありません。私は沢山の音楽、あらゆる
分野の音楽を聴きますが、じつを言えば、バッハのヴァイオリン・ソナタの実演や録音に触
れる機会はあまりありません。私には、ヴァイオリン演奏の各流派の“方針”は、何らかの制
限を設けるものにさえ見えます。
私は新しい曲にのぞむ時、しばしばヴァイオリンよりも先にピアノで譜読みをします。そして
その作品を、自分が感じた通りに奏でます。ハイドンは弟子たちに“美しい旋律を見つけな
さい、そうすれば貴方たちの音楽は美しくなる”と助言したそうです。私の音楽的直感は、
多種多様な音楽を極めて幅広く聴き、学び、実践することによって、培われてきました。し
たがって私は、今日、そうしたさまざまな音楽の知識や感情を統合させる能力に関しては、
十分な自信があります。当然その目的は、自分の利益のために音楽を利用することではな
く、音楽に奉仕することです。実際、もしも私が演奏した音楽を誰かが気に入った場合、そ
の奏者が私だと知ってもらうことは何ら重要ではありません。
貴方はアンドラーシュ・シフのもとで学んでいらっしゃいます。貴方の場合は、何らかのピ
アノ演奏の流派から影響を受けているのでしょうか?
JP.:
確かに私は幸運にも、シフ先生のもとでバッハの音楽を学びました。先生は、素晴らし
い芸術的自由を手にしてバッハの音楽を演奏する道を見出した方だと思います。自由であ
りながら、つねに真正な印象を与える……そうしたアプローチは、私にとって大きな霊感の
源であり続けています。とはいえ私は、自分の演奏を特定の演奏スタイルや楽派に結びつ
けようとは思いません。多くのひとびとから影響を受けていることは確かですが、ピアニスト
以外の演奏家から感化されることの方が多いのです。