Background Image
Previous Page  40 / 68 Next Page
Information
Show Menu
Previous Page 40 / 68 Next Page
Page Background

40

ロベルト・シューマン

“仮面”と“二面性”に話を戻しましょう。《謝肉祭》に関して、この二つの側面をどのように

とらえていますか?

《謝肉祭》は、“肖像画”の見事な展示場に喩えられます。コメディア・デッラルテ(訳注:仮

面を用いるイタリア演劇)でおなじみのピエロとアルルカン、パンタロンとコロンビーヌのほ

かに、実在のショパンとパガニーニも登場します。そして<キアリーナ>はクララを、<エス

トレッラ>はエルネスティーネを意味しています。さらに私たちは、これらすべての登場人

物が“仮面”であって、その裏にはシューマン自身が姿を潜めていると想像することができ

ます。 そしてとりわけ《謝肉祭》には、シューマンの“分身”であるオイゼビウスとフロレスタン

が現れます。シューマンが生んだこの二人の架空の人物が、パウルの小説で対置されたヴ

ァルトとヴルトを引き継ぐのです。オイゼビウスは抒情的な瞑想を見事に聴かせます。一方

でフロレスタンは、混沌に喩えられるほどに切羽詰まった、不安定な精神の動揺を表現しま

す。シューマンはさらに《謝肉祭》において、《パピヨン》の冒頭と末尾に現れるヴルトのテー

マの断片を引用し、「パピヨン

?

」と記しています。

《謝肉祭》には、<オイゼビウス>と<フロレスタン>以外にも、対照的な二つの要素の組

み合わせが見出されます。<ピエロ>は憂鬱ぎみで偏執的で不健全です――この曲で用

いられている、

3

音から成る短いリズム・モチーフは、実に唐突にフレーズを中断させ、私を

常に不安にさせます。対する<アルルカン>は、陽気で溌剌としています。さらに、シュー

マンが愛した二人の女性を象徴する<キアリーナ>と<エストレッラ>には、ある意味で女

性の二面性が映し出されています。この

2

曲の間に挿入されている<ショパン>では、シュ

ーマンがしばしの間、ショパンになりきっているように思えます。