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ロベルト・シューマン

《ダヴィッド同盟舞曲集》の初稿においてシューマンは、各曲にE.(オイゼビウス

Eusebius)、あるいはF.(フロレスタン Florestan)と署名しました。しかし、“F. und E.”

(F.とE.)と署名されている曲もあります。この“連名のサイン”を、どのように解釈してい

ますか?

F. und E.

」と署名された数曲では、物思わしげな気分と情熱的な感情の高まりが交互に

現れます。しかし私は、第

15

曲をこよなく愛しています。曲の中間部は、二つの相対する性

格が融合される真の稀有な瞬間でしょう。両者の合一は束の間ですが、とりわけ印象深い

のです。

構造に目を向けてみると、興味深いことに、《ダヴィッド同盟舞曲集》の終盤では、曲集前

半の要素が再び響きます――《謝肉祭》において、第

1

曲<前口上>が、終曲<「ダヴィッ

ド同盟」の行進>で繰り返されるように。具体的には、オイゼビウス名義で書かれた第

2

<心からの>が、ほぼ忠実に、第

17

曲の終わりで引用されています。これは驚くべき“鏡”

の効果です。この予期せぬ回帰は、常に私に、筆舌に尽くせぬ不思議な感動の瞬間をも

たらしてくれます。第

17

曲には「

Wie aus der Ferne

(遠くからのように)」と書かれています

が、この表記は不要でしょう。目がくらむほど強烈な空間的・時間的な距離感が表現され

ているのですから。転調が相次ぐ中間部では、低音域が、ごくかすかに《パピヨン》のヴル

トのテーマを聴かせます――記憶の奥底から無意識に浮かびあがる、おぼろげな追憶の

ように。