

ゲイリー・ホフマン
41
ハウスマンの名器ストラディヴァリウスは、陽光のような明るいサウンドが持ち味であったが、
じっさいソナタ第
2
番においても、チェロは中・高音域をたっぷりと歌わせる。第
1
番では控え
めに扱われていたチェロの高音域は、第
2
番では、アルプスの山々に囲まれた景色の中を
颯爽と進む全
4
楽章を統率し、光り輝く。シンフォニックな曲調のソナタ第1番に対して、第
2
番は、自由なアゴーギク、ファンタジー、創意に満ちたセレナードを展開していく。第
2
番の
朗らかな曲調は、ブラームスが並行して作曲を進めていたイ長調のヴァイオリン・ソナタとハ
短調のピアノ三重奏曲と無縁ではない。
3
作品は音色や内容の点できわめて関係が深く、
このうちの
1
曲だけを聴いて、残りの
2
曲を思い浮かべることは容易だろう。ブラームスは、う
だるような午後に空を通り過ぎていく暗雲を想わせる第
2
楽章<アダージョ・アフェトゥオー
ソ>で、再び“ピッツィカート楽章”に立ち返る。さらにピッツィカートが多用されるのが、続く
第
3
楽章<アレグロ・パッショナート>だ。やがてブラームスは、それまでの緊迫を緩和し、
光を注いで落ち着かせようとする。
トゥーン湖畔で書かれた作品に特有の“自然への愛情”が純化さ
れ、ブラームスの理想の響きがその完成をみるのは、晩年の詩
情あふれるピアノ音楽においてである。彼の音響世界に新たな、
そして決定的な色彩をもたらしたのがチェロであるとすれば、ソ
ナタ第2番は、すでに晩年の創作への道を拓いていたと言えるだ
ろう。