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ゲイリー・ホフマン

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ハウスマンの名器ストラディヴァリウスは、陽光のような明るいサウンドが持ち味であったが、

じっさいソナタ第

2

番においても、チェロは中・高音域をたっぷりと歌わせる。第

1

番では控え

めに扱われていたチェロの高音域は、第

2

番では、アルプスの山々に囲まれた景色の中を

颯爽と進む全

4

楽章を統率し、光り輝く。シンフォニックな曲調のソナタ第1番に対して、第

2

番は、自由なアゴーギク、ファンタジー、創意に満ちたセレナードを展開していく。第

2

番の

朗らかな曲調は、ブラームスが並行して作曲を進めていたイ長調のヴァイオリン・ソナタとハ

短調のピアノ三重奏曲と無縁ではない。

3

作品は音色や内容の点できわめて関係が深く、

このうちの

1

曲だけを聴いて、残りの

2

曲を思い浮かべることは容易だろう。ブラームスは、う

だるような午後に空を通り過ぎていく暗雲を想わせる第

2

楽章<アダージョ・アフェトゥオー

ソ>で、再び“ピッツィカート楽章”に立ち返る。さらにピッツィカートが多用されるのが、続く

3

楽章<アレグロ・パッショナート>だ。やがてブラームスは、それまでの緊迫を緩和し、

光を注いで落ち着かせようとする。

トゥーン湖畔で書かれた作品に特有の“自然への愛情”が純化さ

れ、ブラームスの理想の響きがその完成をみるのは、晩年の詩

情あふれるピアノ音楽においてである。彼の音響世界に新たな、

そして決定的な色彩をもたらしたのがチェロであるとすれば、ソ

ナタ第2番は、すでに晩年の創作への道を拓いていたと言えるだ

ろう。