Background Image
Previous Page  93 / 128 Next Page
Information
Show Menu
Previous Page 93 / 128 Next Page
Page Background

93

ジョフロワ・クトー

ブラームスはクララの監修のもと、シューマンの作品全集の出版

の準備を終えつつ、1893年の夏に《6つの小品》作品118と《4つ

の小品》作品119を作曲した。両曲集は、それまでに書かれた作

品と同様、瞑想的な「間奏曲」と、伝承文学を連想させる「バラー

ド」(「ラプソディ」と題されている時でさえも)から成り、ここに「ロ

マンス」も加わっている(ブラームスが唯一ピアノのために書いた

ロマンスだ。)これらの構成曲は全て、ブラームスによる最後の密

やかな告白であり、彼が再び、そして最期にクララに宛てた作品

でもある(とりわけ作品118の献呈者はクララだ。)おそらくブラ

ームスはこれらの作品を、クララを介して、シューマン――心から

尊敬する人物、40年前に彼に両腕を広げてくれた人物――にも

捧げている。作品は、メランコリックな優しさで諦念を受け入れ、

優しいノスタルジーによって英雄的な夢想を懐古する。ブラーム

スは、シューマン夫妻、そしてかつての自分を意識してこれらの作

品を書きあげたのだろう。作品119の終曲は、北ドイツの自然、そ

して「若き天才」と呼ばれたかつての若々しいブラームスを彷彿さ

せる、激烈で詩的なバラード(ラプソディ)である。この作品を手

の内にしたい奏者もまた、この「若き天才」の姿を自身の中に見出

さねばならないだろう。