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ヨハネス・ブラームス_ピアノ独奏曲全集

《7つの小品》作品116は(7つの「幻想曲」とも呼ばれるが、この呼称は早くに

書かれた第3曲目のバラードにしか該当しない)、作品76と同様に、「間奏曲」

と「カプリッチョ」から成る。3つのカプリッチョでは、苦難のエネルギーがほと

ばしる――まるで60歳の男の肉体の中に閉じ込められた青年の心が、過去

の扉を勢いよく叩く様に。一方、4つの間奏曲は、自分ではなく他者を慰めよ

うとするかの様に、穏やかなメランコリーを湛えている。

《3つの間奏曲》作品117は、《4つのバラード》(この作品がまたもや話題に

のぼる…)と同様、文学からインスパイアされている。再び、ヘルダーの『諸

国民の声』に収録されたスコットランドのテクスト――子守唄の形式を取る哀

歌――が作曲の発端となっている。ここでもまた、叙述的・描写的な音楽表

現は皆無だ。子をあやす母の声が、第1曲の書法に抑揚を与えている。私た

ちは第2曲においても子守唄を聴くが、それは裏切られた女の語調を帯びた

声だ。密やかな情熱を帯びた苦渋に浸る第3曲が、この陰りのある3部作の幕

を閉じる。