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ヨハネス・ブラームス_ピアノ独奏曲全集
クトーのキャリアの岐路に常に寄り添った作曲家ブラームスの存在は、彼のア
イデンティティの一部となった。そしてそれはゆるやかに、ブラームスの全ピ
アノ独奏曲の録音に挑むという確固とした形を取るに至る。クトーはこの試み
が要求する途方もない演奏量を意識するよりもまず、自身の心が求めた自明
の成り行きとして、このプロジェクトを受けとめたと言う。すでにブラームスのピ
アノ作品の大半を繰り返し演奏してきたクトーはそこに、達成すべき探求の存
在を感じ取った。クトーはこうして、ブラームスのピアノ作品にひたすら身を捧
げる決心をしたのだ――ブラームスとの関係をさらに深めることは、言わば壮
大な冒険である。
「何かに没頭している時に、私たちは自分らしさを最も強く感じます。お
そらく人は他者の力を借りて――私の場合はブラームスの音楽を通し
て、自分とは何かを知るのでしょう。」(クトー)