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ヨハネス・ブラームス_ピアノ独奏曲全集

この考えは、早くも作品9に生かされていた(同作ではバス声部とソプラノ声

部の旋律の入れ替えさえ行われている。)この方針がさらに推し進められるの

が、ブラームスの最も知られざる曲集の一つ《変奏曲集 作品21》だ。2つの変

奏曲から成るが、ここでもまた、作曲時期に反して作品番号が振られている。

まず作品21-1《ハンガリーの歌による変奏曲》は、1853年からスケッチが進め

られ1856年に完成した。主題は、リズム展開の可能性という観点から巧みに

選ばれている(ハンブルクに身を寄せていたハンガリーのヴァイオリン奏者エ

ドゥアルト・レメーニと関係があるものだろう。ブラームスは彼を通じてヨアヒム

と出会った。)

一方、ブラームスが「わが哲学的な変奏曲」と呼んだ作品21-2《創作主題に

よる変奏曲》の斬新な書法は、慣例的なロマン主義の誘惑とは無縁だ。「困

難さは、想像力を手なずけることにある」とブラームスは書いている。彼は古

典主義の厳格な美に、自身の奔放な想像力を従わせることを望んだのだ。こ

の変奏曲は1857年の夏までに完成したが、正確な作曲日は不明である。い

ずれにせよ、古典主義とロマン主義を統合した最初期の作品といえるだろう。

ブラームスは後の時代に、ようやくその試みを実現することになる。