Background Image
Previous Page  81 / 128 Next Page
Information
Show Menu
Previous Page 81 / 128 Next Page
Page Background

81

ジョフロワ・クトー

第1・2番と同様、ソナタ第3番でも変奏曲の書法が様々に探求された。変

奏曲こそ、ブラームスの全創作において中心的な役割を担った技法であ

り、彼は“変奏曲”の語をメイン・タイトルに含むピアノ独奏曲を5つ残し

ている。

まず《シューマンの主題による変奏曲》(作品9、1854年)は、1854年6月

のフェリックスの誕生を機に、クララに捧げられた。シューマンがこの子に

会うことはなく、ブラームスがその名付け親となった。シューマンは数ヶ月

前から病魔に侵され、2年半後に死を迎えるまで、病院に収容されてい

たからだ。

クララは日記にこう記している。「ブラームスは私を慰めようとした。彼は

私にとって大きな意味を持つ、あの心のこもった主題を基に、変奏曲を

書いてくれたのだ。1年前に私もまた、この愛するロベルトの主題を用い

て変奏曲を書いた。ブラームスの優しい気遣いに心打たれた。」

この“ロベルトの主題に基づいて書かれ、クララに捧げられた変奏曲”に

は確かに、めざましく、また時に情熱的な優しさが漂っている。しかし溢

れ出る愛情は、見事にコントロールされた自由な作曲技法(変奏曲であ

れ程に斬新な転調が行われることは珍しい)をも推し進めていく。こうし

て、シューマン夫妻という深い芸術・感情的インスピレーションに包まれ

た《変奏曲》は、ブラームスの音楽言語に真に実験的な世界への扉を開

けることになった。