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フローリアン・ノアック

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あなたは、今回の民俗音楽の探求を徹底させるために、イタリア人作曲家ジュゼッペ・

マルトゥッチの《タランテッラ》をもプログラムに含めています。

このプログラムの構想を練り始めた当初から、ひとつ、固く決心していたことがありまし

た。もの狂おしいタランテッラを一曲、含めたいと強く望んでいたのです。可能であれば

イタリア人の作曲家の手によるものを、とも考えていました。

実に興味深い旋律が用いられているこの作品には、ふたつの版があります。ひとつはピ

アノ独奏版、もうひとつはオーケストラ版です。どちらが先に書かれたのかはわかりませ

ん。ただし私には、全体として控えめなピアノ独奏版に比べて、オーケストラ版は、より多

彩で、奔放で、外向的に感じられました。そこで私は、みずからオーケストラ版をピアノ独

奏用に書き替えたのです。

プログラムの最後を飾るのは、“アルメニアのバルトーク”の異名をもつコミタスの2曲

です。

アルメニア出身のピアニストである私の妻を介して、コミタスの存在を知りました。

2

作の舞

曲は、異なる旋法をもとに書かれています。ひとつは増二度音程を含むため、一種の“

和声的なスパイス”が、ただちに東洋を連想させます。もうひとつはエオリア旋法、つまり

自然的短音階です。これは導音と主音の音程が半音ではなく全音であることから、通常

の短音階よりもノスタルジックな印象をもたらし、“

Giocoso e con teneramente

(こっけ

いに、そして優しく)”という演奏指示を相対化しています。これら

2

曲の書法は概して禁

欲的であり、極めて綿密に記譜されています。ほぼ各音符に、曲調、アーティキュレーシ

ョン、ニュアンスに関する演奏指示が添えられています。この音楽の性格は、私にはかな

り瞑想的に感じられます。舞曲でありながら、そこには、ある種の客観的な視点が見出さ

れるのです……。