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ある旅人のアルバム

オーストリアで生まれイギリスにわたった作曲家パーシー・グレインジャーの作品を取

り上げる演奏家は、ほとんどいません。彼の音楽をどのように知ったのですか?

イギリス、スコットランド、アイルランドの民俗音楽をもとに作品を書き上げた作曲家を探し

ていたのです。そしてすぐさま、グレインジャーにたどり着きました。今回のディスクで取

り上げた《民俗音楽編曲集》の数曲は、彼の友人だったグリーグに献呈されています。グ

レインジャーとグリーグは、様式を異にしながらも、かなり類似したアプローチを取ってい

るように思えます。つまりふたりとも、単に民謡の旋律を曲に取り入れるだけでなく、その

様式や流儀、そしてそれが演奏されていた楽器を聴き手に想起させます。

グレインジャーのピアノ書法は、ピアニストの指に理想的になじみます。ところで私は、こ

の曲の演奏においては、きわめて特異なリズム感を宿す民謡の即興性を表現するため

に、フィドル(民俗音楽やフォークミュージック等で使われるヴァイオリン)の奏法を時おり

参照しました。

ポーランド人シマノフスキの作品にも、同様の“真正”がみとめられるのでしょうか?

その通りです。シマノフスキは実在の民俗的な素材を曲に取り入れており、どの地域の

ものを借用したのか明記してさえいます。この小さな曲集《

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つのポーランド舞曲》は、オ

ックスフォード大学出版局からの依頼で、選集「世界の民俗舞踊」のために作曲されまし

た。今回のディスクに収めることができたのは、終曲<ポロネーズ>をのぞく

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曲だけで

す。とはいえ正直に申し上げれば、<ポロネーズ>の精神は、この曲集の中でやや異

質であるような気がします。