

42
ある旅人のアルバム
オーストリアで生まれイギリスにわたった作曲家パーシー・グレインジャーの作品を取
り上げる演奏家は、ほとんどいません。彼の音楽をどのように知ったのですか?
イギリス、スコットランド、アイルランドの民俗音楽をもとに作品を書き上げた作曲家を探し
ていたのです。そしてすぐさま、グレインジャーにたどり着きました。今回のディスクで取
り上げた《民俗音楽編曲集》の数曲は、彼の友人だったグリーグに献呈されています。グ
レインジャーとグリーグは、様式を異にしながらも、かなり類似したアプローチを取ってい
るように思えます。つまりふたりとも、単に民謡の旋律を曲に取り入れるだけでなく、その
様式や流儀、そしてそれが演奏されていた楽器を聴き手に想起させます。
グレインジャーのピアノ書法は、ピアニストの指に理想的になじみます。ところで私は、こ
の曲の演奏においては、きわめて特異なリズム感を宿す民謡の即興性を表現するため
に、フィドル(民俗音楽やフォークミュージック等で使われるヴァイオリン)の奏法を時おり
参照しました。
ポーランド人シマノフスキの作品にも、同様の“真正”がみとめられるのでしょうか?
その通りです。シマノフスキは実在の民俗的な素材を曲に取り入れており、どの地域の
ものを借用したのか明記してさえいます。この小さな曲集《
4
つのポーランド舞曲》は、オ
ックスフォード大学出版局からの依頼で、選集「世界の民俗舞踊」のために作曲されまし
た。今回のディスクに収めることができたのは、終曲<ポロネーズ>をのぞく
3
曲だけで
す。とはいえ正直に申し上げれば、<ポロネーズ>の精神は、この曲集の中でやや異
質であるような気がします。