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モーツァルト

長い年月のなかで、モーツァルトのソナタに対する貴方の見解はどのように変化してき

たのでしょうか?

私にとって、ある楽曲の本質を追求することは、一冊の本の真意を探ることに似ていま

す。突き詰めていけばいくほど、真実に迫ることができるからです。それは物事の見方

や、作曲家とその作品への理解を変化させます。ただし、演奏に関して何らかの結論を

引き出すという意味ではありません。音楽とは開かれた存在であり、生き物だからです。

同じピアニストが同じ作品を弾く場合でも、その奏法や解釈は、年齢によって大きく異な

ります。偉大なピアニストたちが人生のさまざまな時期に行った演奏を聴く醍醐味は、そ

こにあります。

私はと言えば、ある楽曲に以前と同一のアプローチで向き合うことはありません。人生

観が変わっていくなかで、作品に対する“まなざし”も変わっていくからです。つまり現在

の自分は、過去の自分とは異なります。生き方、呼吸の仕方、歩き方が変わるのですか

ら、当然、

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歳の時と同じように弾くことはありえないのです。私はもうすぐ

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歳になりま

す。なかなかのものでしょう?

歳を重ね、私の演奏は以前よりも大胆になりました。