Background Image
Previous Page  30 / 52 Next Page
Information
Show Menu
Previous Page 30 / 52 Next Page
Page Background

30

モーツァルト

ボザール・トリオとして、モーツァルトのピアノ三重奏曲を全曲録音なさっています。この

作曲家と貴方の関係についてお話しください。

あるとき、モントリオールの批評家からこう尋ねられました。「もしモーツァルトの音楽がなか

ったら、ボザール・トリオはどうなっていたでしょうか?」私は当惑してこう返しました。「では

貴方自身は、モーツァルトがいなかったらどうなっていたと思いますか?」続いて私は、この

質問に真面目に向き合い、こう述べました。「いま私たちが踊っていられるのは、モーツァ

ルトのおかげです。彼がいなかったら、歩かなければならなかったでしょうから。」我ながら

良い答えだと思います。自分でも驚きましたよ!要するにモーツァルトの音楽は、真の感情

と完全さの極みに達しており、絶対的なるものに接しています。ところが生前、当時の聴衆

たちは彼の才能を理解していませんでした。例えばモーツァルトは晩年に、新作のピアノ

協奏曲を幾つか披露するために、ウィーンで演奏会を開こうとしました。しかしチケットが売

れなかったため、モーツァルトは仕方なく、客寄せのために友人のクラリネット奏者に出演

を依頼しました。それが功を奏し、客席が埋まったそうです。これは嘆かわしいこととして語

り継がれるべきエピソードです。彼は直後に他界し、その遺体は共同墓穴に葬られました。

これまでの演奏活動において、ベートーヴェンやシューベルト、ブラームス、ラヴェル、フォ

ーレ、ドビュッシー――私はサン・フランシスコのドビュッシー国際コンクールの覇者でもあ

ります――への愛を見失ったことは一度もありません。彼らはいつのときも、私の歩みに寄

り添ってくれました。しかしモーツァルトこそ、私の人生につねに大きな影響を及ぼした作

曲家です。