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エルメス四重奏団

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ラヴェル、デュティユー、ドビュッシー。エルメス四重奏団にとって重要な3作品をアルバ

ムに収めるに当たり、あなた方はイタリアでの録音を望みました。聞くところによれば、レ

コーディングは予定外の環境の中で行われたそうですが…

2014

年にイタリアのマントヴァで行ったコンサートをきっかけに、今回の録音会場となったビ

ビエーナ劇場の存在を知りました。

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世紀に建てられた壮麗なホールです。モーツァルト

は子供の頃、開館直後のこの劇場で演奏しました。そうした歴史的な出来事の舞台となっ

たこの場所に、私たちは“一目ぼれ”しました。素晴らしい音響や、劇場を取り巻く美しい街

にも惹かれました。毎年マントヴァを訪れるようになり、今では現地に友人もいます。ですか

らビビエーナ劇場は、私たちの理想的な録音会場だったのです。“ほぼ理想的”と言い改

めるべきかもしれませんが…。というのも、録音を行った週に、劇場裏の車道が、マントヴァ

市内に入ることのできる唯一の迂回路になってしまったのです。マイクを設置した直後に、

レコーデングの音楽監督を務めた音響技師のジャン=マルク・レネから、二択を迫られま

した。レコーデングを中止するか、もしくは真夜中に録音しなければならないと…。もちろん

私たちは後者を選び、

4

日間、毎晩

11

時から早朝

4

5

時までレコーディングを行いました。

結果として、音の伝播にとって絶好の時間帯であったように思います!

私たちは毎晩、マントヴァの宿泊先の人々に“おやすみ”と告げてから劇場に向かいまし

た。そして夜が明けて宿に帰ると、今度は朝食をとっている彼らから、“おやすみ”と声をか

けられました。一風変わった時間帯に録音を行ったことは、私たちにとって決して忘れられ

ない思い出となりました。人々が寝静まった街の中心で、素敵な劇場が醸し出す雰囲気

は、私たちに豊富なインスピレーションをもたらしてくれました。さらに、こうした特異な状況

は、日中よりも限られた時間の中で集中してプロジェクトを遂行することを私たちに強い、ベ

ストを尽くすよう私たちの背中を押してくれたのです。