

30
ラヴェル / デュティユー / ドビュッシー
今回のアルバムの収録曲とエルメス四重奏団の“出会い”についてお話しください。
私たちは、ラヴェルの弦楽四重奏曲と共に成長してきました。
4
人でアンサンブルを初めた
その日、既に譜面台にはこの曲の楽譜が置かれていたのです。私たちはこの作品のお蔭
で、クァルテットという演奏形態の柔軟性を意識するようになりました。つまり、自分たち
4
人
は
16
本の弦を備えた一個の楽器であり、無限の音色を作り出すことができるのだと気づい
たのです。そしてラヴェルの弦楽四重奏曲は、
4
人共通の音質を追求していくという点にお
いて、多くの成果を得ることができた作品でもあります。
ラヴェルの弦楽四重奏曲は、
20
世紀初頭のフランス楽派の美学をそのまま体現していま
す。リヨン国立高等音楽院で共に学んでいた私たちは、この作品に向き合いながら、自分
たちがフランス音楽の伝統の延長線上に身を置いているような感覚をおぼえました。一方
で、時に東洋の民俗楽器の音色を想像させる
5
音音階や奏法は、私たち
4
人の多様な文化
的背景に、とりわけ共鳴しているように思えます。
ラヴェルの弦楽四重奏曲は、奏者に“挑戦”を突き付けてくる音楽です。なぜなら、
4
人のパ
ーソナリティを溶け合わせながら、ある時には皆が融合し、またある時には一人一人が個性
を打ち出さなければならない作品だからです。長年、この曲を頻繁に演奏会で取り上げて
きましたが、レコーディングをきっかけに、作品を新たに解釈し直すことができました。私た
ちがこの作品との間に育んできた関係に、新しい風が吹き込まれたのです。それはラヴェ
ルの弦楽四重奏曲が、奏者たちに大いなる自由を与えてくれる作品だからでしょう。まさに
私たちは今回、作品の主たる方向性を絶えず尊重しながら、この“自由”を生かそうと努め
ました。