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フランツ・リスト
聖人を扱う《波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ》は、神秘主義的作品なのでしょう
か?リストのピアノ作品群において神秘主義を成すものとは何なのでしょうか?
フランツ・リストにおける神秘主義を語る、ということですね。私はこの語がリストの全作品に
当てはまるとは思いません。むしろ、彼の根底にある“信念”、宗教性、つまり信仰が、ロマ
ン主義の時代において、よりいっそう理想的な形で現れたのだと考えます。感情が、個人
を超える次元と情熱を獲得したのです。実際、私は神秘主義という語を、スクリャービンの
作品における様ないわゆる神秘的な、超現実的な靄に、より直接的に結び付けます。私は
リストの作品の中に、疑い、自問しながらも、これに応える絶対的な信仰を備えた人間の姿
をみとめます。それは今日、私たちが認識しているような“神秘主義的な芳香”に一線を画
するものです。
《ソナタ ロ短調》はリストの音楽的思想のアルファでありオメガであるとお考えですか?
貴方はこの作品にどのようにアプローチしたのでしょうか?霊感を与えられたピアニス
トがいましたらお教えください。
ウラディミール・ホロヴィッツ、アルフレッド・ブレンデル、アニー・フィッシャー、マルタ・アル
ゲリッチなど――彼らの演奏はそれぞれ全く異なるものですね――、巨匠と称される偉大
な先輩ピアニストたちの《ソナタロ短調》の演奏には、随分長い間、耳を傾けませんでした。
私の場合、自分が経験していた事柄にあまりに影響され、非常に早い段階で《ソナタ ロ短
調》を“自分の”ストーリーに仕立ててしまったのです。普段は年長者を参考にする私が、こ
の作品には、自らの最も美しく不思議な体験のひとつとして向き合いました。危険を冒して
他のピアニストたちの解釈を聴く前に、ソナタに独りで対峙したのです。