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アルド・チッコリーニ
クレメンティの大ソナタ作品
34-2
(
1795
年出版)について見てみましょう。
この作品は古典派時代の大作に属しますが、残念ながらこれを演奏する
音楽家は大変に少ないですね。
A.C.
この曲を聴いて最初に思うのは、彼が生まれた国のことです。大変にイタリア
的な作品です。私がこの曲を知ったのは、ホロヴィッツがクレメンティの作品を
集めたレコードを出した時で、すぐに楽譜屋に飛んでいって楽譜を購入し、夜通し
読んだ思い出があります。
作品
34-2
はピアノという楽器をよく理解して立派に使いこなしている、大ピアニ
ストによる作品です。私は緩徐楽章の「ウン・ポコ・アダージオ」に特に思い入れ
があります。古典派の正統をゆく、簡素さの見本というべき曲で、正真正銘の室
内楽です。これに不安げな「モルト・アレグロ」が続きます。このフィナーレ楽章と
モーツァルトのハ短調『ソナタ』のフィナーレには類似性がありますが、クレメンテ
ィはモーツァルトほど遠慮深くはありませんね。
この「モルト・アレグロ」はクレメンティがカノンに秀でていることを示して
います。
A.C.
クレメンティはカノン作曲におけるヴィルテュオーソでした。楽章の真ん中
で、テーマはホ短調のカノンとして扱われています。そしてすべてが、驚くべき自
然さでつながっているのです。
この『ソナタ』のような美しい作品が演奏会のプログラムにほとんどのらな
いのはなぜでしょう。
A.C.
クレメンティは練習曲をたくさん作曲しましたが、教育用のこれらの作品が
不利にはたらいていることが挙げられます。彼のことをある種の不信を持った目
で見ることが多いのです。しかしその『ソナタ』集からは、彼が素晴らしい音楽家
であったことが伺われます。ベートーヴェンはこのことをよく知っていました。