

33
ヴァネッサ・ワーグナー
選曲理由についてお聞かせください。
2000
年にモーツァルトを録音し、その後長い間、またスタジオでモーツァルトの
音楽に向き合いたいと思っていました。一方でクレメンティという選択は、どちら
かといえば偶然です!あるリサイタルで、ソナタ作品
23-2
を弾いて欲しいと依頼さ
れたのです。このソナタは、これまでほとんど録音されていないようです。私がク
レメンティに抱いていたイメージは、面白いのに過小評価されている作曲家、と
いうものでした。彼のいくつかの作品を――例えばホロヴィッツが弾いていた作品
24
――知ってはいました。不当にもクレメンティは、その功績にふさわしい注目を
浴びていません。モーツァルトとベートーヴェンの間の時代に生きたという、不運
ゆえに!オーストリア皇帝ヨーゼフ
2
世が、モーツァルトとクレメンティの演奏対
決を企画し、引き分けとした、という逸話があります。クレメンティはモーツァル
トをとても尊敬していましたが、モーツァルトはクレメンティを慕ってはいません
でした。しかしベートーヴェンは、クレメンティをソナタの揺るぎない大家として
仰いだそうです。クレメンティの音楽世界に身を投じた私は、すっかり魅了されて
しまいました。今回取り上げた作品
50-3
は最後に書かれたソナタで、彼の傑作のひ
とつです。第
1
楽章と終楽章の卓越した主題は、メロディ・メーカーとしてのクレ
メンティの才能を十二分に伝えてくれます。