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ヴァネッサ・ワーグナー
ラヴェル、デュサパン、シューベルト、さらには電子音楽まで、多彩なディスコグラフィを誇
る貴方にとって、モーツァルトとクレメンティを組み合わせた新譜は、どのような位置づけ
にあるのでしょうか?
ラ・ドルチェ・ヴォルタ・レーベルと初めてタッグを組んだ録音であり、新しい試
みを提案できる絶好の機会でした。モダン・ピアノとフォルテピアノによる演奏を
1
枚の
CD
に収めるというアイデアで、
1814
年製のブロードマンと、ヤマハの
CFX
を
用いました。
私が古楽器に向き合うようになったのは比較的最近のことです。発端は、ワルター
の
1790
年製のフォルテピアノを使った
2008
年の演奏会でした。フォルテピアノに
親しむようになったのは、指揮者フランソワ=グサヴィエ・ロトのお陰です。彼の
手兵レ・シエクルと共に、テオドール・デュボワの協奏曲第
2
番を当時の楽器で録
音しました。ロトは私がフォルテピアノ向きだと言ってくれたのですが、その時は
とりたてて古楽器の世界を探求しようとは思いませんでした。まだ若かった私の関
心は、フォルテピアノのインティメートな世界よりも、大きく力強いサウンドに向
いていたからです。古楽の演奏技術を全く身に付けていなかったので、古楽器を上
手くコントロールできるとも思えませんでした。結果的には、フォルテピアノを弾
いて恋に落ちてしまったのですが!