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グラナダに移住したファリャは、ヒターノ(スペインジプシー)から霊感を得、代表作《恋は魔

術師》を書き上げた。作品全体は、フラメンコのカンテ・ホンドの魅惑に満ちている。《恋は

魔術師》は、もともとパストーラ・インペリオの舞踊団のための音楽劇(《ヒタネリア》)として書

かれ、後年にバレエ作品として改められた。後者は

1925

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日に、パリのル・トリアノン

劇場にて、舞踊家ラ・アルヘンティーナとエスクデーロによって初演され、大当たりした。フ

ァリャはこれをきっかけに、同作の管弦楽組曲版から

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つのエピソードを選び、ピアノ独奏用

に編曲した。ピアノの簡素さに直面した彼は、冒頭の<パントマイム>のアクションを際立

たせるレチタティーヴォの素材を挿入している。聴き手は、主人公カンデーラが、かつての

恋人の亡霊とカルメロへの恋心の板挟みになるさまを追体験する。全体は物語調であり、

ピアノがまさしく“劇”を繰り広げていく。

これと正反対の手法がとられているのが、《三角帽子》(1918-1919)の3つの舞曲をピ

アノ用に編曲した作品である。何よりも華麗さを追求する、ピアニスティックな仕上がり

だ。ここでは奏者の表現がもっとも重視され、煽られた指が、様々な民俗的要素の巧みな

融合を楽しむ――時に“スカルラッティ風の”ピアノ書法からも刺激を受けながら。ファリ

ャは珍しいことに、これら3作の華々しい舞曲を通して、ピアノの演奏効果を余すところな

く誇示している。

ウィレム・ラチュウミア