Background Image
Previous Page  31 / 56 Next Page
Information
Show Menu
Previous Page 31 / 56 Next Page
Page Background

31

ファリャの最初の大作はピアノ曲だった――《

4

つのスペイン小品》というタイトルは、あくま

でも曲の性格を表すものであって、そこに民族主義的な思惑はない。この曲集は、アルベ

ニスの《イベリア》を受け継いでいると考えられる。

1908

1

2

日、ポリニャック公爵夫人の

サロンでブランシュ・セルバが初演した《イベリア》から影響を受けたファリャは、パリで《

4

のスペイン小品》を完成させた。ファリャは、すでに

1906

年にマドリードで<アラゴネーサ>

と<クバーナ>を作曲していた。彼は《イベリア》との決定的な出会いをきっかけに、この

2

作を再び手に取り、推敲したのだ。刺激を受けた彼はさらに2月に、<モンタニェーサ>と

<アンダルーサ>をすぐさま書き上げた。

<アラゴネーサ>はもともと、アルベニスの《旅の思い出》からインスピレーションを得て書

かれた。<アラゴネーサ>で用いられているテーマは架空の民謡であるが、<クバーナ>

のそれは、実在の「グアヒーラ」に由来する。これはゴットシャルクが人気を高めた種々の音

楽と同様、カリブの音楽である。「風景」という副題が付された<モンタニェーサ>は、曲集

中の傑作であり、ファリャのもっとも優れた小品のひとつに数えられる。この曲の一音一音

は、アルベニスが《イベリア》以前に書いた印象主義的な大作《ラ・ベガ(草原)》に呼応して

いる。鐘の音、音色の拡がり、詩的な空間が、どこまでも緻密な風景を織りなし、続いてアイ

ロニーを帯びた小歌が私たちの耳を楽しませる――それは反教権主義的な歌の引用だ!

そしてこの歌は、和声的な展開の中にすぐさま消えていく。<アンダルーサ>のリズミカル

な熱情は、フィナーレならではの性格を際立たせている。フラメンコのカンテ・ホンドを呼び

起こし、様式化しているこの曲は、踊り子の姿を浮かび上がらせ、カンタオール(フラメンコ

歌手)の歌声を響かせる。和声書法は革新的だ。《

4

つのスペイン小品》は、リカルド・ビニェ

スによって

1909

3

27

日にサル・エラールで初演された。曲集の壮麗さと、ファリャの謙虚

さに魅了されたデュカス、ドビュッシー、ラヴェルらの口利きで、ファリャはデュラン社と楽譜

出版契約を交わすことになる。

ウィレム・ラチュウミア