

その後、私はパリ国立高等音楽院の入学試験を受けることになりました。試験曲に
《フモレスケ》が含まれており、この作品が私にとって突破口のひとつとなりました。
それまで私は、シューマンの緻密に“構築された”作品を多々演奏していました。
協奏曲、ソナタなど……。しかし突如、この奔放なファンタジーの世界へ投げ出さ
れたわけです。しばしばシューマンの音楽には、何らかの声が潜んでいますが、こ
れは“行間”を読まなければ特定できません。それは特に<スフィンクス>(《謝肉
祭》)や《ノヴェレッテ》第
8
番に当てはまる特徴です。《フモレスケ》では
3
つのコーダ
が並んでいます。なぜならシューマンは、曲を終わらせることができなかったので
す!そして彼の頻繁に脇道にそれる作曲書法は、物語の中にさらに物語を挿入し
ていく手法を用いたホフマンの作風を想起させます。
さて、試験官のひとりだったアンドレ・ブクレシュリエフは、私が演奏した後にこう述
べました。「あなたは真のシューマン弾きだ(またしてもこの言葉!)。イヴ・ナット
を彷彿させる」と。当時、私はイヴ・ナットのことをよく知りませんでした。しかし徐々
に、作曲家シューマンが自分にとって特別な“相棒”だということを意識するようにな
りました 。
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ダナ・チョカルリエ