

75
ジョフロワ・クトー
今回ジョフロワ・クトーは、ブラームスの全ピアノ独奏曲を年代順に録音
した。この決意は、聴き手と共にブラームスの作曲様式の変遷を時の変
遷として――そして一つの人生の変遷として――捉えたいという強い想
いに端を発する。
クトーの試みは、イプセンの戯曲『ペール・ギュント』の主役に挑む若き俳
優のそれに喩えられるだろう――戯曲の冒頭では20歳の若者として登
場するギュントが、約6時間後には人生の黄昏時を迎えるのだから。
イプセンはギュントの人生を介して、“自分とは何か”を追求することの重要
性を私たちに伝えている。それこそまさに、ブラームスの音楽言語の軌跡
の課題でもあった。