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ショスタコーヴィッチ
ショスタコーヴィッチはまるで過去を再現するかのように、交響曲第1番、
5
番、
8
番、ピアノ三重奏曲第
2
番、チェロ協奏曲第1番、オペラ『ムツェンスク郡のマクベ
ス夫人』を引用している。また、ワグナー(『神々の黄昏』の葬送行進曲)やチャ
イコフスキー(『悲愴交響曲』)、革命歌『残酷な捕虜生活で死ぬまで拷問され』
もほのめかしている。
このように少々寄せ集め的な様相を見せているにもかかわらず、作品の統一性は全
く失われていない。それどころかその統一性は、信じがたいほどのドラマ性の中心
に据えられている。これ以降、ショスタコーヴィッチの他の作品には多くの引用が
なされ、コード化されたメッセージを送るのである。収容所に送られたり行方不明
になったりして友人を一人また一人と失っていった彼には、常に死がつきまとい続
けているのだった。
ショスタコーヴィッチは、『弦楽四重奏曲』第
8
番が〔このような面を〕おおっぴ
らに知らしめていることを、打ちのめされた心象風景を反映した「戦争とファシズ
ムの犠牲者に捧ぐ」という献呈で隠している。
作品は、ベートーヴェン弦楽四重奏団によって
1960
年
10
月
2
日に初演された。