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ショスタコーヴィッチ
弦楽四重奏曲第
8
番ハ短調作品
110
はがらっと変わって息が詰まりそうな雰囲気を
持っている。
時は
1960
年。ショスタコーヴィッチの人生はさらに暗いものとなり、インスピレー
ションが湧かない深刻な危機からやっと抜け出たばかりだった。彼は、廃墟と化し
たドレスデンで、映画『
5
日
5
晩』の音楽の作曲を終えようとしている最中だった。
彼は
7
月
12
日から
14
日のたった
3
日間で新しい弦楽四重奏曲を書き上げた。それにつ
いてこう語っている。
「もし私が死ぬようなことがあっても、誰も私の思い出のため
に作品を書こうとは思わないだろうと考えながら、『弦楽四重奏
曲』第
8
番を作曲した。自分自身で書こうと思ったのだ。表紙には
『この弦楽四重奏曲の作曲者に捧ぐ』とでも記せるだろう。」