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1948

年1月

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日、音楽の妖精がジャン=フィリップ・コラールのゆりかごのまわりを行き来して

いた。シャンパーニュ地方で音楽好きな大家族に育った彼は、やがて家族で演奏する室

内楽の魅力に引き込まれる。

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歳のとき、故郷を離れてパリに上京したが、その時にはまだ、これからどんな人生が待ち

受けているのかは知る由もなかった。パリ高等国立音楽院、国際コンクール、厳しくもあた

たかく、しかし要求の多い、名教師ピエール・サンカンの

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年間にわたる教え。そして彼は、

音楽の国際舞台へと押し出されるのであった……

ジャン=フィリップ・コラールはしかし、師の名前を、自身の才能を保証するものとして大きく

振りかざすようなことはなかった。音楽的に成熟していった重要な時期に育まれたヴラデ

ィミール・ホロヴィッツとの友情についても、やっと何かの機会にほのめかすだけだった。

師からは深く格調高い「歌うこと」の秘密を学んだが、そのおかげで彼は、中間的

な色彩に満ちた叙情性や、琴線に触れる温かな秘話を鍵盤を通して語るマエストロとなっ

た。

今までに

50

点にのぼる録音をリリースし、カーネギー・ホール、コロン劇場、ロイヤル・アル

バート・ホール、シャンゼリゼ劇場など、ヨーロッパ内外の大ホールで精力的な活動を展開

するジャン=フィリップ・コラール。フランスの聴衆には周知の演奏家、アメリカの聴衆にはお

気に入りピアニストとして、世界を股にかけて多くの一流の指揮者と共演してきた実力派で

ある。

しかしながら、彼は決してスポットライトに目がくらむことはない。シンプル、ダイレクトで陽気

な彼が喜んで語るのは、聴衆の前での成功譚よりもプライベートな幸せについてだ。妻と

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人の子供たちに囲まれた幸福な家族生活、忠実で大切な友人たち、等々。自然を愛し、

時間があれば日曜大工もするこのジェントルマン・ピアニストは、秘密の花園を今も耕し続

けている。

www.jeanphilippecollard.com