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1948
年1月
27
日、音楽の妖精がジャン=フィリップ・コラールのゆりかごのまわりを行き来して
いた。シャンパーニュ地方で音楽好きな大家族に育った彼は、やがて家族で演奏する室
内楽の魅力に引き込まれる。
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歳のとき、故郷を離れてパリに上京したが、その時にはまだ、これからどんな人生が待ち
受けているのかは知る由もなかった。パリ高等国立音楽院、国際コンクール、厳しくもあた
たかく、しかし要求の多い、名教師ピエール・サンカンの
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年間にわたる教え。そして彼は、
音楽の国際舞台へと押し出されるのであった……
ジャン=フィリップ・コラールはしかし、師の名前を、自身の才能を保証するものとして大きく
振りかざすようなことはなかった。音楽的に成熟していった重要な時期に育まれたヴラデ
ィミール・ホロヴィッツとの友情についても、やっと何かの機会にほのめかすだけだった。
師からは深く格調高い「歌うこと」の秘密を学んだが、そのおかげで彼は、中間的
な色彩に満ちた叙情性や、琴線に触れる温かな秘話を鍵盤を通して語るマエストロとなっ
た。
今までに
50
点にのぼる録音をリリースし、カーネギー・ホール、コロン劇場、ロイヤル・アル
バート・ホール、シャンゼリゼ劇場など、ヨーロッパ内外の大ホールで精力的な活動を展開
するジャン=フィリップ・コラール。フランスの聴衆には周知の演奏家、アメリカの聴衆にはお
気に入りピアニストとして、世界を股にかけて多くの一流の指揮者と共演してきた実力派で
ある。
しかしながら、彼は決してスポットライトに目がくらむことはない。シンプル、ダイレクトで陽気
な彼が喜んで語るのは、聴衆の前での成功譚よりもプライベートな幸せについてだ。妻と
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人の子供たちに囲まれた幸福な家族生活、忠実で大切な友人たち、等々。自然を愛し、
時間があれば日曜大工もするこのジェントルマン・ピアニストは、秘密の花園を今も耕し続
けている。
www.jeanphilippecollard.com