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ジャン=フィリップ・コラール
どのようなスタイルを目指していますか。
弾くレパートリーがどんなものであれ、常に「音」を最優先にしてきました。サンソン・フランソ
ワが「青い音」と呼んでいたもの、すなわち、理想的な時に理想的な音を発することを探求
しています。それは横溢する満ち足りた音なのです。音色を制御できるようになると、語り
口や、音楽フレーズの高まりなどをコントロールすることができますが、録音という体験によ
って、この探求をより押し進めていくことができるのです。逆説的になりますが、レコードや
CD
は、ある意味、統一された音がつくりだされる原因となってしまいました。私がまだ若い
頃は、大ピアニストは、音で誰が弾いているのかわかったものです。こんにちのピアノ演奏
は、残念ながら一本調子な形が多勢となってしまいました。
ショパンの音楽にはルバートの問題がつきまとっています。よいバランスを見つけるには
どうされていますか。
わたしはある方針をもって弾いています。それは、ルバートによって時空関係が曲げられて
はいけない、リズムや拍動に影響が出てはいけない、という原則です。音楽的な自由とは、
時間と空間という枠内において表現されるものです。わたしはこの規則を音色の探求にも
取り入れています。ひとつひとつの音が独自の重みをもつようなフレーズを作っていけるよ
うに、音を扱っていくことに腐心しています。