

フィリップ・カサール
47
フィリップ・カサールはこの素晴らしいプログラムに、さらに3つの《夜想曲》を加えた。
第
2
番 ロ長調 作品
33-2
(
1881
年頃)の冒頭では、“カンタンド”の指示のもと、無言歌を彷彿
させる物憂げな雰囲気が演出される。やがてロ短調の華麗なトッカータが、ピアニストに高
度な超絶技巧を要求する。リリカルで壮麗なフレーズ(“ドルチェ・エスプレッシーヴォ”)が
現れたのち、鈴の音に似たモチーフとともに冒頭の無言歌が回帰する。曲尾ではトッカー
タが再び、簡潔かつ平穏に(
ppp
)響く。
第4番 変ホ長調 作品
36
(
1884
)には、若かりしフォーレ特有の魅力にあふれている。冒頭
では、物憂げに振る舞う様子に、歌心に富んだ主題が織り交ぜられ、やがて複数の鐘の音
が交互に鳴らされる(変ホ短調)。続いて“カンタンド”の美しいエピソードが、抒情性の極致
(変ト調の“フォルティッシモ”)へと向かっていく。この抗しがたい魅力を放つ作品の終盤で
は、冒頭の
2
つのモチーフが再現されたのち、静寂がおとずれる。
第
11
番 嬰ヘ短調 作品
104-1
(
1913
)は、晩年のフォーレらしい、きわめて豊かな霊感を感じ
させる。彼の初期の楽曲に散見した魅力は、ここでは緻密でもっぱら不協和なポリフォニー
に道を譲っている。両手が繰り広げる対話は、左手が打つ弔鐘のモチーフに、短
2
度の音
程が印象的な旋律線を重ね合わせ、やがてふたつ目のエピソード(“カンタンド”)を提示
する。冒頭の複数のモチーフが回帰(ff)すると、どこまでも雄弁な音楽世界が展開され、曲
は絢爛かつ穏やかなコーダに至る。葬送のテーマがこの夜想曲にもたらしているインスピ
レーションは、フォーレの全作品の中でも群を抜いて美しく大胆なものであるが、献辞がそ
の所以を明らかにしてくれている:“ノエミ・ラロを偲んで”。ノエミの夫で批評家のピエール・
ラロ(作曲家エドゥアール・ラロの息子)は、偉大な芸術家、ガブリエル・フォーレの最大の
理解者のひとりであった。