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40 トランスクリプション&パラフレーズ 私がフェリックス・メンデルスゾーンの独唱・合唱・管弦楽のためのカンタータ《最初のワルプ ルギスの夜》を知ったのは、ケルン音楽大学に入った年だった。新入生の必修科目の一つが合 唱であったことから、私は久しぶりに合唱を歌うことになったのである。メンデルスゾーンは若 かりし日に、友人ゲーテの自宅を訪ねている。ゲーテの詩から着想を得た《最初のワルプルギ スの夜》は、増えゆくキリスト教徒たちと対立するドルイド僧[古代ケルト族の祭司]が異教的 な儀式をおこなう様子を描いている。ユダヤ教からキリスト教(プロテスタント)へ改宗したメ ンデルスゾーンは、虐げられる少数派に光を当てたゲーテのテクストに、自身の境遇を重ね合 わせたのではないだろうか? あるいはメンデルスゾーンは、この詩に漂う幻想的な色彩やバ ラード特有の雰囲気に惹かれたのかもしれない。じっさい、その雰囲気は、移り気で悪魔的な スケルツォにおいて特に具現されているように思える。 《シェヘラザード》は、“管弦楽の魔術師”リムスキー=コルサコフの傑作である。ちなみに彼 は、ピアノ曲をほとんど残していない。この曲に見られる『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』 からの影響は、複数の観点から整理することができる。音楽による“想像上の東洋世界”の喚 起や、玉虫色のごとく千変万化する華麗なオーケストレーションはもとより、文学的モデルと の構造面での照応も確かにみとめられるからだ(一連の「小話」を中断する叙唱風の経過部 は、語り手シェヘラザードの説得力に富んだ魅力を如実に伝えている。)私は、それらのことを 心に留めつつ《、シェヘラザード》をピアノ独奏曲に凝縮しようと努め、リムスキー=コルサコフ の華麗な管弦楽法を、もっぱらピアニスティックな手段を用いて喚起しようと試みた。

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