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59 フロリアン・ノアック この道の出発点にあるのは、ギイ・サクルと彼の言葉である。サクルの著書『ピアノ音楽(La musique de piano)』は、若き芸術家ノアックにとって、今も無尽蔵な発見の源泉だ。ノア ックはページをめくるに任せて、この書から、誰もが知る音楽家の名と、知る人ぞ知る音楽 家の名を、汲み上げていく。読み進めていく彼は、知られざる作曲家の楽曲の美に取りつか れる一方で、モーツァルトやベートーヴェンやシューベルトの音楽を聞き・奏で、彼らの傑作 の力に心動かされもする。 音楽と同様に時間芸術である文学も、ノアックに寄り添い、彼に霊感を与え、彼を育んでき た。彼が恩師たちから得てきた指導にも、まったく同じことが言える。直観的で深遠な教えを 授けてくれたヴァシリー・ロバノフは、数々の助言に加えて、ノアックに「君の魂を育むように」 と厳命した。他方、彼はクラウディオ・マルティネス・メーナーのもとでは、洗練された奏法と 細部への配慮を身につけた。フェレンツ・ラドシュとの出会いは、ノアックの音楽との向き合 い方を一変させた。以来、ノアックが様式面での画一性に縛られることはなくなった。音符 が何を求めているのか、どのように音符が働きかけ・作用し合っているのか、それらを実際に どのように響かせるべきかを理解することに、主眼を置くようになったのである。それによっ て各楽曲は、唯一無二のものとなり、彼がその独自性を堪能し味わいたいと欲する一つの 世界として現出する。ノアックは知っている——作曲者がリャプノフであれ、クレメンティであ れ、モーツァルトであれ、どんな楽曲も、その真価が発揮されさえすれば“衝撃”をもたらしう るのだと。 そう、モーツァルト——この作曲家の音楽に包まれながら、ノアックは1990年にブリュッセ ルで生まれた。彼のキャリアが開始したのは、エリーザベト王妃音楽学校(通称シャペル) においてである。多くの国際コンクールで入賞を果たし、世界各地から招かれ演奏を重ね ているノアックは、“母港”ベルギーに帰港し、王立リエージュ音楽院で後進の育成にも励ん でいる。ラ・ドルチェ・レーベルでの知られざる楽曲の録音活動——時に世界初録音も含 む——も、彼の使命の一つである。ノアックは録音を通して、それらの楽曲を実在させる。そ して彼は、アルバムを発表するたびに報われた気持ちになる——世界に、もう一つの新たな オブジェが加わるのを目にして。

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