LDV98-9
53 フランソワ=フレデリック·ギィ 話がそれましたが、《ピアノ・ソナタ第3番》は、ショパンが大規模な形式をどれほど完璧に 手の内に収めていたかを物語っています。緩徐楽章は、ある意味では彼が書いた最も大規 模な夜想曲に思えます。 私のショパン演奏は特定の系譜に属してはいません。むしろ私は、過去の幾人かの演奏 家たちの自由な演奏と、他の演奏家たちの精密な演奏――さらに言えば厳格すぎる演 奏――の間に立ち、統合を試みています。片方に傾くと、ある種の厳格さを欠きますし、も う片方に傾くと、ある種の熱情を欠くこともあります。ポーランドの伝統については……シ ョパンは、言うなればポーランドをフランスまで連れて行きました。そして自身の大半の作 品を、ヨーロッパ全土に開かれたパリのサロンで発表したのです。 現代音楽を定期的に演奏している貴方から見て、ショパンは今日の作曲家たちにどのよ うな影響を与えていますか? ピエール・ブーレーズは、ショパンの夜想曲とマズルカを演奏していました。彼の《12のノ タシオン》の幾つかには、ショパンの書法からの影響がみとめられます。また二人の作品で は、アフォリズムを想わせる簡潔な表現への愛着がうかがえます。アンリ・デュティユーは、 ショパンへの敬愛の念を公言していました。私はパリでトリスタン・ミュライユの最新のピア ノ協奏曲《サイクロンの目L’Œil du cyclone》を初演したばかりですが、この曲の副題は“ 幻想即興曲”です! 偉大な現代作曲家の一人が、ショパンの影響を意識的に受け入れて いることは示唆に富んでいますし、ショパンへの素晴らしいオマージュだと思います。
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