LDV98-9
51 フランソワ=フレデリック·ギィ 私は今回、プレイエルの楽器で何時間もひたすら練習しました。大胆な喩えが許されるの であれば、この楽器は、バロック・オーケストラのティンパニと同じ位に力強くダイレクトに、 明瞭な音を発します。じっさい私は、現代の人びとに古めかしい印象を与えることなしに、 遠い昔の“真実”の大半を復元できたような感覚をおぼえました。録音セッション中、調律 師のマリオン・レネが常にそばに控え、この宝石のような楽器の状態を愛情込めて整えてく れたことに心から感謝しています。有難いことに、マリオンは休みなく楽器の可能性を最大 限に維持してくれました。この種の楽器の内部構造は、特殊な調整を絶えず必要とします。 さらに調律師にも、ショパン作品の演奏様式に関する極めて高度な知識が求められます。 先述したように、そこでは芸術と職人芸が歩み寄り、一体になるのです。 使用楽譜についてお話し下さい。 複数のエディションを用いました。ショパンの作品の場合、“唯一の真実”はありません。校 訂者たちの判断は時に恣意的で、作品が歪められていることもありますし、ショパン本人 も、自作に手を入れて稿を変えていきました。そのため演奏者は、価値ある資料を漏れなく 手に取り、考察しなければなりません。一例を挙げるなら、《ピアノ・ソナタ ロ短調》の自筆 譜では沢山のスラーが欠けており、幾つかの臨時記号が不明瞭です。また音楽学者たちや 演奏家たちは、長年にわたり、種々の不確かな音符について議論しています。例えば、ショ パンが弟子の楽譜上で自作に修正を加えている場合、“唯一の真実”の特定は困難です。 今回私が用いたのは、ウィーン原典版(夜想曲、練習曲、バラード)、サラベール社のコルト ー版――彼の詩的な注釈は、貴重で、常に霊感を与えてくれます――、そしてパデレフスキ 版(幻想曲、幻想ポロネーズ、幻想即興曲)です。何を選ぶかは奏者に任されていますが、 常にショパンの意図に沿おうと努めなければなりません!
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