LDV98-9
49 フランソワ=フレデリック·ギィ この楽器では、言うなればタッチと一体になる必要があります。アタックが直接的なので、 独特で特徴的な音――時折り初期のベーゼンドルファーの音を想起させます――が出ま す。押した瞬間に鍵が戻ってくるため、どんなに速いテンポでも、力づくで弾く必要がありま せん。例えば、《ピアノ・ソナタ ロ短調》の終楽章の場合、ショパンが記したプレストのテン ポで演奏できますし、あの厄介な6連符も(ほぼ)難なく扱うことができます。高音域では力 強さを期待できないので、楽器に無理強いしないよう気を付けなければなりませんが、低 音は素晴らしく明瞭で、驚くべき豊かさと深みをそなえています。このプレイエルでは、ショ パンが――とりわけ夜想曲のジャンルで――多用した、あの有名なペダル書法を理想的 に具現することもできます。主旋律である“歌”のレガートを完璧に保ちながら、次の小節の 前にバスを“息継ぎ”させることができるのです。その好例は、大曲《夜想曲第13番 ハ短調 op.48-1》の第1部です。 つまり私は、ショパンの音楽の明快さと流麗さを再現してくれる楽器を見つけたのです。現 代のピアノでは、この重要な二つの美点が、しばしばある種の皮相さをまとってしまいます。 モダン・ピアノは性能が優れているがゆえに、時に高音が過度に華やかに響きますし、高速 なテンポでは低音が十分に明瞭に鳴らず、音量もアンバランスです。
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