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48 ショパン | シークレット・ガーデン 要するに、ピアノが声楽に“仕えて”いるわけですね…… おっしゃる通り、それがショパンの器楽曲の最も顕著な特徴です。しかも彼は、優れた歌曲 を幾つか書いてもいます。ひるがえって、ベートーヴェンの音楽における声楽性について語 る人などいません。《ミサ・ソレムニス》や《フィデリオ》について論じる時でさえも……。とこ ろでショパンは、ペダルを数小節にわたって踏ませ続けるという創意に富んだ試みを行っ ています。できる限り音を長く保ち、靄(もや)に包まれたような響きを生むためです。この 効果は、古典主義的に感じられるフレーズに神秘性を与えます。同様の効果が、ベートー ヴェンのピアノ・ソナタ《ワルトシュタイン》にも見出されます。 その“声楽性”を、今回どのような楽器で表現したのですか? 幸運なことに私は、ピアノ修復工房“ピアノ・バルロン”で修復士を務めるシルヴィ・フアノン と出会いました。今回の使用楽器は、シルヴィが修復を終えたばかりの全長2.86メートル の1905年製のプレイエルです。ダブル・エスケープメント・システムを備えていない楽器な ので、弾き慣れるまでに時間がかかりました。*原注 *原注:ダブル・エスケープメントとは、ピアノのレペティション(反復)機構のこと。スプリング(ばね)と可動式レバーのお かげで、奏者は打鍵を続けざまに反復することができる。1821年にセバスティアン・エラールがこの画期的な機構を発 明し、その後1833年にセバスティアンの甥ピエール・エラールによる改良が特許を得た。今日の全てのグランド・ピアノ は、この素早い連続打鍵を可能にする機構を備えている。ただし、垂直構造のアップライト・ピアノに取り付けることはで きない。(ピアノ・バルロン社のピアノ用語集より抜粋 www.pianos.fr)

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