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ジョフロワ・クトー / メス国立管弦楽団 31 ブラームスはクララに宛てた手紙の中で、〈シャコンヌ〉の編曲を思い立った理由を詳しく明 かしている: “今日まで長いあいだ、こんなにも楽しい曲を――君の指が耐えられればの話です が!――君に送ったことは一度もなかったはずです。(略) ヴァイオリンの名手が傍らにいない場合の最良の策は、それ[〈シャコンヌ〉の楽譜] を読み、[この曲を]心の中で響かせることです。ただしこの曲は、私たちの心をくすぐ り、何らかの行動を起こすよう私たちを促します。空想の中でしか鳴らない音楽を常 に聞いていたいとは思いませんし、ヨーゼフ·ヨアヒムがいつもそばにいてくれるわけ でもないので、私たちとしては、あれこれと試してみるしかありません。けれど、その手 段がオーケストラであれピアノであれ、私の喜びは決まって削がれてしまうのです。 私が思うに、この曲が与えてくれる純然たる喜びに近づく方法は、ただ一つしかあり ません。たとえそれが、きわめて限られた方法であるとしても……。つまりそれは、こ の曲を左手だけで弾くという方法なのですが!そうすることによって、[原曲に]匹敵 する難しさや、技術的な特性、アルペッジョなどを表現できますし、それらすべてが 相まって、ヴァイオリニストになったような気分にさせてくれます!” ブラームスにとって、この編曲はバッハと心を通わせる機会であると同時に、もっとも近し い二人の親友ヨアヒムとクララの存在を、みずからの音楽の中で結びつける機会でもあっ た。バッハに敬意を払うべく、原曲に忠実で純度の高い編曲をおこなったブラームスの姿 勢もさることながら、この編曲版が醸し出す深みとスピリチュアルな熱気は、ブラームスの 全作品と同じように私たちの心を揺さぶる。

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