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30 ブラームス ∙ ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15 〈シャコンヌ〉は、バッハの《無伴奏ヴァイオリン·パルティータ第2番ニ短調BWV1004》の 終曲である。このケーテン時代に作曲された有名な舞曲は、“1720年”と記された自筆譜に 含められた。これはバッハとのあいだに7人の子をもうけた彼の最初の妻、マリア·バルバラ が亡くなった年である。 バッハの影響を色濃く聞かせる《ピアノ協奏曲ニ短調》の第2楽章は、明らかにシューマン に捧げられている。いっぽう、バッハの〈シャコンヌ〉の左手用編曲版はクララに捧げられて いる。1877年、編曲を終えたブラームスは、クララにこう書き送った。“私にとって〈シャコン ヌ〉は、この世に存在する音楽の中でも最高傑作の一つであり、私たちの想像の域をはるか に超えています。たった一つの方式で、たった一つの小さな楽器のために、バッハは深い思 想と強烈な感覚に満ちた一つの世界を創り上げました。もしもこの曲を書いたのが自分で あったならと想像するだけで、あるいは単にこの作品の着想を得た自分を思い描くだけで、 私の心は特大の興奮と感激とで狂ってしまうでしょう。” バッハが遺した比類なく崇高な〈シャコンヌ〉は、ひたすらにブラームスを魅了した。この曲 は、しばしばブラームスの音楽をなす重厚さと内面性を兼ね具えている。そのうえブラーム スは、無限の可能性に満ちた変奏の技法を偏愛し、巧みに活用した作曲家でもある。《シュ ーマンの主題による変奏曲作品9》、《ヘンデルの主題による変奏曲作品24》、《弦楽六重 奏曲第1番》第2楽章(これもニ短調だ)にもとづく《主題と変奏》……。さらに《交響曲第4 番》(1884-1885)の終楽章でも、シャコンヌとよく似たパッサカリアの形式が用いられて いる。
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