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28 ブラームス ∙ ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15 崇高な第2楽章〈アダージョ〉が、ブラームスの手に成るもっとも美しい音楽の一つであ ることは論をまたない。彼は草稿に、ラテン語祈祷文の一節(Benedictus qui venit in nomine Domini 主の御名の下に来れるものに祝福あれ)を書き入れているが、その意図 は謎に包まれている。ひょっとすると彼は、数年前にシューマン夫妻の前に天使のように現 れた自分自身について思いをめぐらせたのかもしれない……。弱音器付きの弦楽器群が聞 かせるコラールは、おそらくはバッハの音楽にちなんでおり、天から降ってきたように響く。 あるいはそれは、シューマンの魂を抱く深遠なライン川の流れを示唆しているのかもしれ ない……。猛烈な第1楽章の後につづく、この胸を打つ哀歌は、安らぎと静けさを湛えなが ら壮大な合唱のごとく声を強めていく。このとき私たちは、涙と光、悲嘆と慰めのあいだを 行き来する《ドイツ·レクイエム》のいくつかの楽章を聞いているような印象を受ける。苦しみ を昇華させる長·短調の交替からも、特異な感情が生まれ出る。やがてピアノは徐々に孤立 し、ベートーヴェンの同種の傑作を彷彿させる悲痛な山場へと、この緩徐楽章を運んでい く……。コラールは、誇らしげな勝利の行進に姿を変え、天上にいる二人の天才音楽家を 引き合わせる。

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