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49 ジャン=フィリップ・コラール — ビルケント交響楽団 — エミール・タバコフ 近々その“長い道”に足を踏み入れるおつもりは? 分かりません……。今、新しいレパートリーについて考えている最中なので、可能性はあり ますが……。現在は《幻想曲 作品28》に取り組んでいます。まぎれもない傑作で、ラフマニ ノフの作品ほど難曲ではありませんが、やはり難しい……。この曲がうまく仕上がったら、 ほかのスクリャービンの曲にも挑戦します。 《8つの練習曲 作品42》や《3つの練習曲 作品65》などはいかがですか? 特に9度の 重音をあつかう練習曲は夢幻的ですね。 確かに、どこか理性を失わせるようなところがありますから、気を付けなければなりません ね。作品42や作品65の練習曲を演奏会のプログラムに組み入れるのは至難で、それも悩 みの種となります。じっさい、彼の作品の多くは、譜読みの段階では何ということはない曲 に感じられるのに、本番で弾くとまったく別物になります。楽譜上の音素材が示している曲 の全体像と、じっさいに鳴り響く音楽のあいだに、何光年もの隔たりが在るのです。あの捉 えがたい音素材をきちんと把握するのは困難です。いわば全てが浮遊し、和声とフレーズ が絶えず沸き起こります。スクリャービンの晩年の作品は、どれも途轍もない難曲ですが、 コンサートではまるで蛍のようにひらひらと舞います。おそらくそれが、私が演奏を躊躇す る最大の理由です。
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