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48 アレクサンドル・スクリャービン — ニコライ・リムスキー=コルサコフ 《焔に向かって》を弾こうと思われたこともないのですか? 確かに弾いたことがあります……でもアルカディ・ヴォロドスの豊満な名演を聞いたとき、 もうこの曲を封印しようと決めました。マルタ・アルゲリッチによるショパンの《ピアノ・ソナ タ ロ短調》の演奏を聞いたときにも、同じ心境になりました。彼女の手にかかると、あの曲 が別世界の空気をまとうのです。私が弾く意味はないと悟りました。 別の解釈や演奏もありうるとは考えないのですか? もちろん、そう考えています。ただ、ヴォロドスの演奏からあまりに深い感銘を受けたため、 私にとって、今や彼の演奏こそがあの曲の理想的な姿なのです。そのような場合には、自然 と謙虚な気持ちになります――私が鍵盤上で語れることは、もう何もありません。 スクリャービンの作品の中では何が一番お好きですか? おそらく《ピアノ・ソナタ第5番》です。ただし難曲ですから、自分自身の解釈を表現できるよ うになるまで弾き込むには、長い時間を要します……。適切な指使いを見出す程度では到 底太刀打ちできないソナタであり、何よりも曲を精神的に体得するまでの道のりが長いの です。
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