LDV91
色彩のなかで ジャン=フィリップ・コラールは、演奏している時と同じように立ち振る舞うタイプの音楽 家である。その慎み深い所作は、ピアノの前に腰かける寸前まで、そっと光をかすめている のだ。そしてコラールは、彼の演奏を聴きにやって来た人々の心の声に耳を傾け、言葉のな い対話、まなざしと無数の音の対話をうながす。 このような聴衆との特異な連携は、演奏会に先立つ一連の“準備”をすっかり覆い隠す。そ う、彼もまた、しばし興奮を忘れようとし——舞台に立つ前の午後のひとときの何と長いこ と!——、本番を待ち焦がれる体を静め、度胸を誘導し、虚空の中へ飛び込む直前の束の 間を支配しようと努めているのだ。それでも結局のところ、全ては状況に任せるしかない。 コラールは言う、必要なのは「音楽から切望されること、自らを落ち着かせ、自発性に再び 道を譲って聴衆を引き付けること」だと。なぜなら音楽の美を示し伝達する行為は、情熱の 域を超えたところにある。つまりそれは、この上ない必然性に根ざしたアプローチであり、 その実現のためには、見返りに人心を掌握しようと望むことなく、みずからの感情を分かち 合う覚悟を決めなければならないのである。あまたの演奏と録音を通じて、それはやがて 一つの巨大な贈り物となりうる。
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