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長期にわたり書き進められた《13の舟歌》は、フォ ーレの創作人生の大部分に寄り添った。時にほの暗 く壮大で、時に簡素な、魅力あふれる13曲は、フォ ーレの洗練を極めた書法と、彼の作曲語法の発展を 体現している。 ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎが口ずさむ、独特な揺れをともなう伝統歌“舟歌(バルカロ ーレ)”は、ショパンの手になる傑作ゆえに、ピアノ音楽の一ジャンルとしての地位を得 た。1881年から1921年にかけてガブリエル・フォーレが書き進めた《13の舟歌》もショパ ンにならっているが、その洗練を極めた和声、音色、多様なムードは、フォーレならではの 音世界を形作っている。初期の数曲が放つ特異な魅力、濃密なポリフォニー、官能性、円 熟期の数曲が時に帯びるほの暗さ、そして晩年の数曲が聞かせる、一見シンプルで時に意 表をつく簡素な表現……これらの要素が、全13曲において鮮やかなコントラストをなして いる。 “フォーレ弾き”として定評のあるジャン=フィリップ・コラールは、過去に数年をかけてフォ ーレの全ピアノ独奏曲と全室内楽曲を録音。さらにフレデリカ・フォン・シュターデとの共演 で、フォーレの歌曲のアルバムも発表している。歌曲はフォーレの創作の主軸であり、コラ ール自身は、このジャンルをさらに掘り下げなかったことを悔やんでいるという。“言葉と音 楽の結びつき、そして歌手であれば従わざるをえない――しかし一部のピアニストたちが ないがしろにしている――息継ぎやフレージング……それらすべてが、フォーレの音楽へ の理解を深めてくれる”と、コラールは述べている。

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