LDV88-9

45 ダヴィド·グリマル 《ソナタとパルティータ》の中で、特にお好きな曲はありますか? 幾つかの曲に、より“心地よさ”を感じます。それらは他の曲に比べて、より知的で抽象的で す。その抽象性の度合いは、ときに常軌を逸しています! これは、奏者にとっても聞き手に とってもよりいっそう近づきやすい《無伴奏チェロ組曲》には見られない特性です。私は、演 奏会の最後にアンコールとして《ソナタとパルティータ》の長大なフーガを弾くことはしませ んが、自宅ではそれらを好んで演奏しています。アンコール曲としては、サラバンドや緩やか なテンポの楽章のほうが聴衆の期待に沿っているように思います。それらは、より華麗で直 感に訴えるタイプの音楽であるか、優しく親密な曲調の音楽であるため、私と聴衆の心を繋 いでくれるのです。この点においても、〈シャコンヌ〉は特殊なケースです。なぜなら、長大であ りながら聞きやすく、その美しさと豊かな人間味によって人びとの心を動かすからです。 そこでは聖と俗、そして永遠と日常が交差しています…… バッハにとって、職工としての“曲づくり”は聖なる行為でした。井戸に水を汲みに行き、野 菜を収穫し、夜に眠りにつく……そうした日常のすべては、スピリチュアルなのです。かつて 私はインドで、この聖と俗の連結を実感しました。敬虔な心が、しばしば俗世に対する旧弊 な――時に暴力的な――拒絶として表に現れる現代において、バッハの音楽は今もなお、 私たちに天地万物を説き、私たちが解さぬものを賛美しています。バッハは、この世界、そし て時間と一体をなしていたのです。

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