LDV88-9

バッハの時代以降、ヴァイオリンもその演奏技術も変化をとげてい ます…… 鍵盤楽器の歴史は、チェンバロからモダン・ピアノに至るまでに、擦弦楽 器が経験したことのない認識論的断絶を経ました。しかし、ヴァイオリン の歴史にも断絶があったことを知る必要があります。製作者たちは、バス バー(表板を補強するための楽器内部の部材)も、弦の張力も、駒(ブリ ッジ)の勾配も変えました。弓は、弦の張力に応じて、よりいっそう進化し ました。演奏場所も変化しましたが、いずれにせよ《ソナタとパルティー タ》は音楽ホールの聴衆のために書かれた作品ではありません。これら すべての変化と向き合いながら、私たちは――どんな作品を演奏するさ いにもそうですが――テクストの真実を追求しなければなりません。そ のさいには、聞き手が必ずしも作品の音楽世界に慣れ親しんでいるわけ ではないこと、そして演奏会場が、小ぶりのバロック・ヴァイオリンのサウ ンドを想定して設計されたわけではないことを、念頭に置く必要があり ます。この、言わば理想と現実の狭間で舞うダンスこそが、私のアプロー チの軸なのです。

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