LDV88-9
41 ダヴィド·グリマル あなたにとって本盤は、《ソナタとパルティータ》の3度目の全曲録音です。1999 年・2008年の全曲録音を経た今回の演奏には、どのような新味があるとお考えですか? この曲集の各録音は、まぎれもなく私の“現状報告”にたとえられます。初めての全曲録音で は、若さゆえに怖いもの知らずでした。《ソナタとパルティータ》は当時の私を形成したレパー トリーでしたが、私はかなり自由奔放に、何の屈託もなく意気揚々と演奏に没入しました。 2度目の全曲録音をおこなったのは35歳のときで、プライヴェートでは危機をくぐり抜けて いました。意識的および無意識的な内省を繰り返した時期でした。 今回の録音は、50歳に近い私にとって、もっとも困難で骨の折れる挑戦でした。この歳にな ると、自分を制御できるようになったような気がします。私の場合は、種々の様式――とりわ けバロック――を経験し、それらを指導する側にもなりましたから、多様なアプローチが交 差する場所に立ち、それらを統合できるような錯覚を抱くのです。しかし、じっさいはそうで はありません。いくつもの開かれた扉は、いくつもの新しい展望に通じており、私たちの理解 を揺るがします。それは途方もなく素晴らしい体験です! つまり私は、理解していると感じ れば感じるほど、自分は何も理解していないことをいっそう悟るのです。“私が唯一知ってい るのは、私が何も知らないということだ”とソクラテスも言っていますね……。逆説的です。私 は《ソナタとパルティータ》を弾いていると、自分が以前よりも大きな自由を手にしているよう な気がします。なぜなら、この曲集は日々の糧のように私に寄り添ってきたからです。しかし 同時に、道を進めば進むほど、地平線は遠くへ離れていきます。それこそが偉大な作品の特 性であり、この音楽の美しさです。《ソナタとパルティータ》は私たちを己と向き合わせます。 その道に終わりはありません。
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