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26 シューベルト︱『ロザムンデ』•『死と乙女』 シューベルトの優美でぬくもりのある音楽の背後には、じつは途轍もない力強さや激しさ が潜んでいます。 彼の偏ったイメージを作り上げているものの一つとして、肖像画が挙げられます。丸みを帯 びた顔、温厚なたたずまい、小さな赤い頬、そしてあの眼鏡が、どちらかといえば穏やかで 内気な印象を与えるからです。しかしシューベルトのデスマスクからは、彼が私たちの想像 以上に強い意志をもっていたことがうかがえます。この二面性は、私たちを今もなお驚嘆さ せる彼の音楽の中にも見出されます。彼の光り輝く音楽は、常に影と隣り合わせにあるので す。今回の収録曲である2作品は、ほぼ同時期に書かれましたが、陰と陽のような関係にあ ると思います。『死と乙女』は悲劇性と暗さを、『ロザムンデ』は優しさとノスタルジーを、それ ぞれ体現しています。 歌曲《死と乙女》(1817)にもとづく変奏曲である第14番第2楽章は、この弦楽四重奏曲 の佳境と言えます。出だしは冷ややかな雰囲気を漂わせますが、この冒頭8小節間を演奏 する際、どのような点で苦心なさいますか? ポリフォニーの扱いです。強調すべき声部を把握する必要があります。ピアニストが一拍ご とに和音を変化させていく様子を表現しつつ、コラール風の主旋律を息長く奏でなければ なりません。これらの要素を一息で連綿と紡いでいくには、きわめて複雑なアプローチが求 められます。

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