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フィリップ·カサール / アンヌ·ガスティネル / ダヴィド・グリマル 33 つまり、より以前の時代の別のアプローチが軽視されているのです。アマデウス弦楽四重 奏団やフルトヴェングラーの演奏様式に代表されるであろう、音楽のより自由な流れや、よ り“揺れ”のある音楽を目指すアプローチは、しばしばポスト・ワーグナー的なものとして誤 って非難されてきました。ベートーヴェンの音楽の“垂直性”を重視するこのような態度は、 二元的な世界の到来、音楽の産業化や解釈の画一化の時代と大いに関係しています。こ れによって、もはや“揺れ”を伴う演奏は論外に置かれることになりました。演奏者たちは機 械的かつ完璧な演奏に、ただ満足しているのです。石のように冷ややかで、生真面目で、 怒りを抱えたベートーヴェン……まさにクラシック音楽界全体が、この人物像をそのまま象 徴しています。しかしながら、私たちがそのようなイメージを払いのけて小節線を取っ払い、 フレーズや“揺れ”が生じはじめ、私たちが何かを感じようと意識した瞬間に、ユーモアや魅 力や優しさが姿を現します!ベートーヴェンは人間でした。私たちが、彼を威圧的な胸像 として見つめる代わりに、彼を自分たちの傍らに引き寄せた途端に、彼の音楽との交流は 一変します。そうして得られる親近感が、私たちの心を完全に解放してくれます。まさにそ れが、今回の録音プロジェクトで私たちが取ったアプローチでもあります。この点に関して、 私たち3人の方向性はぴったりと一致していました。
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