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32 ベートーヴェン / “幽霊”& “大公” ベートーヴェンと一枚岩的な音楽構造とを結びつける見解は、音楽教育の場 で彼に与えられてきたイメージとも関係しているのでしょうか? DG : ベートーヴェンを“機械のような作曲家”あるいは“リズム作家”とみなすイデオロギー のようなものが存在します。彼の音楽の“垂直性”や構築性を強調するこの種の美学は、弦 楽四重奏団によって——とりわけウォルター・レヴィン(ラサール弦楽四重奏団の創設メンバ ーであり第1ヴァイオリン奏者)によって——大々的に広められました。レヴィンは室内楽演奏 の指導者として重鎮であり、現代のほぼ全ての弦楽四重奏団の育成に関わっています。そ してレヴィンが擁護していたのが、作曲家ベートーヴェンをメトロノームの発明と関連づける 強力なイデオロギー、彼の音楽の機械的な側面を重視する考え方だったのです。このアプ ローチはのちに、古楽器やHIP(歴史的な情報にもとづく演奏)を信奉するひとびとに再び 受け入れられ、拡張されました。彼らは、ベートーヴェンの交響曲を極めてリズミカルに—— 時にテクノ・ミュージックさながらに——演奏しはじめたのです。この傾向は今日もなお、私が 共演する多くのオーケストラにみとめられます。機械的反応、力の行使……。毎回、私は彼 らに“ベートーヴェンが登場したのはカラヤンの後ではなくハイドンの後だよ”と言わざるを えません。そこには、ベートーヴェンの音楽をめぐる一種のプロパガンダ——“超人”に対す る幻想と結びついたプロパガンダ——の名残が見出されます。

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